吉備中央町~美咲町一帯/くさぎ菜のかけめし

【vol.4】くさぎ菜のかけめし

  

 文化庁「100年フード」に認定された、継承すべきクサギナを使った郷土料理。

 

▲吉備中央町から美咲(みさき)町一帯の郷土料理「くさぎ菜のかけめし」は、各家庭で伝わってきたため、使う具材や汁をかけるタイミングなど形式は自由。写真は、青田眞智子さんの料理。

 

 

手間をかけることも愉しみとして継承したい。

 

夏も近づく5月下旬から6月、山野では「クサギ」の葉が摘み頃を迎える。クサギは全国に自生するシソ科の植物で、漢字で書くと「臭木」。その名のとおり独特の強い香りを放つが、あくを抜いて乾燥させると香りは消え、高菜に似たしっかりした食感で、滋味深い味わいの食材となる。しかも長期保存が可能なため、特に葉菜が少ない冬などに重宝されてきた。

 

岡山県では「クサギナ」と呼ばれ吉備中央町から美咲町一帯では「くさぎ菜のかけめし」が郷土料理として有名だ。各家庭で味付けや具材は違うものの、おおむね甘辛く炒り煮したクサギナと、きんぴらにしたニンジンやゴボウなどをご飯にのせて、かけ汁をして食べられている。ちなみに今は鶏肉だが、昔は猟でキジやウサギが獲れるとその肉を入れて食べたという。

▲「くさぎ菜のかけめし」は、文化庁「100年フード」で令和4年度「伝統の100年フード 部門~江戸時代から続く郷土の料理~」に認定。写真は、吉備中央町『郷土料理まきば』。

 

 

 

近年は高齢化でクサギナを扱う人が少なくなったことが課題だが、令和四年度、吉備中央町観光協会が、世代を超えて受け継がれる地域特有の食文化を認定する文化庁「100年フード」に、「くさぎ菜のかけめし」を申請 し認定されたことは、受け継ぐうえで大きい。当時の担当者で(ろくたん)元地域おこし協力隊の六反かゆこさんと、クサギナに詳しい地元の日名(ひな)文吾さんに話を伺った。

▲クサギナ摘みを愉しみにする吉備中央町の六反(ろくたん)かゆこさん(左)と、日名文吾さん(右)

 

 

「明治生まれの人が、『くさぎ菜 のかけめし』は、古くから食べられていたと話されていたので、発祥時期は江戸時代までさかのぼれます。各家庭のちょっと特別な日、また地域で970年以上続く加茂(かも)大祭のときや結婚式などのハレの日に用意されたごちそうでした。また先日、クサギナを使った天ぷらやクッキー、マフィンを食べましたが、とても美味でいろんな可能性を感じました。要となるクサギナは、あく抜きに手間がかかるのがネックですが、若い人が気軽に使える食材になればいいなと思います」と六反さん。

 

続いて、日名さんがその手間について教えてくれた。「クサギナは摘んでもすぐには 食べられません。摘んだらあく抜きのために湯がいて水にさらし、数回水を替えながら水が澄むまで三日程度必要です。その後葉をよく絞って一枚ずつ広げて天日干しにして乾燥させます。手間暇がかかって大変ですが、限られた季節の恵みですし、手間も含めてクサギナの愉しみとして伝えられたらと思います」。

 

伝えるための場づくりを大切に。

 

吉備中央町の北東に位置する美咲町の生涯学習講座には、「みさきみんなの台所会」の人たちを講師にするクサギナ摘み体験がある。「私たちは有志のグループで、『じじばばの知恵袋』として地産地消や郷土料理などを伝えています。山でクサギナの葉を摘む人も減っていますから、食材を大切にしてきた昔の人の思いとともに体験の場をつくっていけたらと思います」と代表の池上照子さん。


▲大釜で湯がいたり、葉を広げたり。クサギナ摘み体験の様子。


 

 

会場は、美咲町の山間にある古刹・丸王寺(まるおうじ)。「みさきみんなの台所会」の会員でもある後藤恵秀住職は、「クサギナを摘んだ後は、昔から寺にある大釜で一気に湯がきます。昔はみんなで集まってよくコンニャクやお寿司を作っていましたから、暮らしの知恵も自然に共有されました。便利でスピーディ、個人主義が優先される現代だからこそ、季節の食材に手間をかけて向かい合い、山で過ごす健やかな一日は貴重だと思います」と語る。

 

また、同じく美咲町の生涯学習講座で開催される「くさぎ菜のかけめし」の料理講座も見逃せない。講師は今年80歳の青田眞智子さん。青田さんは若い頃、学校給食調理員として働き、約30年にわたって子どもたちの食に寄り添ってきた。

▲料理講座で「くさぎ菜のかけめし」のレシピを教える講師・青田眞智子さん。

 

 

 「私の場合は、子どもの頃に食べた祖母の味が基本になっています。給食で『くさぎ菜のかけめし』を出すのは準備が大変でした。初夏に生徒約100人分の葉を摘んで乾燥させて、長期保存ができるので1月の全国学校給食週間が来たら調理していました。でも、昨年の料理講座に当時の生徒さんが参加していて、給食で食べたことを懐かしがって話してくれてね、もう涙が出ました。移住してきた参加者の人も珍しいと喜んでくれて、やはり郷土料理を伝えていきたいなと改めて思いました」と嬉しそうに話してくれた。

 

学校給食の献立で郷土料理を伝える。

 

地域の学校給食が郷土料理と出合う機会になることもある。事実、地元育ちの50代男性、大釜(おおがま)仁士さんは、「給食で初めて食べた『くさぎ菜のかけめし』がおいしくて忘れられない」と言う。そして、「先日、子どもが通う学校の給食の献立表に『くさぎ菜のかけめし』の文字を発見して、思わず自分が大喜びしてしまった(笑)」と。それは美咲町立旭学園の1月分の献立表で、今年も全国学校給食週間に「くさぎ菜のかけめし」が登場した。

▲美咲町立旭学園の学校給食の「くさぎ菜のかけめし」。

 

「当校は、旭小学校と旭中学校を統合した小中一貫教育校で、郷土学習にも力を入れています。給食は校内で調理する自校式給食なので、郷土料理や地元食材を使った献立なども可能。子どもたちは、おいしく愉しく地域の食文化を学ぶことができます。食材の解説や動画などの掲示物も、栄養教諭の後藤先生や調理員さんたちの手作りで、熱意をもって子どもたちの食育に取り組んでいます」と藤原敬三校長(現美咲町教育長)。

▲美咲町立旭学園の藤原敬三校長(右 ※取材当時)と、栄養教諭の後藤眞依先生(左から3番目)、給食調理員のみなさんが、給食調理員の大先輩・青田さんを囲む。

 

 

また、栄養教諭の後藤眞依先生は、先述した昨年のクサギナ摘みの講座にも参加したとのことで、「山の中でクサギナがどんなふうに自生しているか知りたくて。最初は、『この葉っぱ食べられるの?』と内心驚きましたが、昔の人の知恵を知って、子どもたちにも伝えたいと思いました。いつか大人になったとき、学校の給食で郷土料理に出合ったことがいい思い出になって、地域への愛着が生まれるきっかけになれば嬉しいです」。

 

昔の人たちは、素朴なクサギナの葉を最大限生かして、少しでも食が豊かになるよう「くさぎ菜のかけめし」を作り伝えた。食のスタイルが多様化する現代だからこそ、地域の風土や人々の心と深く結びついていることも合わせて、郷土料理を大切に継承していきたい。

 

 

 

 

 

「くさぎ菜のかけめし」をこちらで体験~味わう~

 

郷土料理まきば

 

加賀郡吉備中央町吉川4860-6 きびプラザ1階

電話:0866-56-8326  営業時間10:00~19:40(OS19:00)  休み:火曜(祝日の場合は営業) 席数:20席 P:206台

 

和食歴約60年の職人が作る「くさぎなかけめし」は、クサギナのほんのりした苦みを旨みにかえる職人ならではのかけ汁が上品な味わい。クサギナは自家栽培で、摘み取りからあく抜き、乾燥まですべて手作業した自家製。店は定食から手作りケーキなどのカフェメニューまで多彩なラインアップ。

こちらは、あらかじめかけ汁をして提供するスタイルの「くさぎなかけめし」 1045円。

 

▲仲よし家族で切り盛りする店長の大住直子さん(左)。

 

 

 

「道の駅かもがわ円城」ふれあいの館

 

加賀郡吉備中央町上田西2325-1

電話:0867-34-1717 営業時間10:30~15:00  ※土・日曜、祝日は~16:00、「朝うどん」は土・日曜、祝日の8:30~

休み水曜 席数37席 P78台  [Instagram]@kamogawaenjo

 

 土・日曜、祝日には朝8時30分から味わえる「朝うどん」が好評のうどん専門店。ゆえに「くさぎ菜のかけめし」のかけ汁にも、カツオ、コンブ、サバ節でとった、うどんだしを使用。ごま油で炒ったクサギナと合わさって、コク深い味わいに仕上がっている。数量に限

 りがあるため予約をするのがベスト。

▲店は、乾燥したクサギナや特産品を販売する『道の駅かもがわ円城』に隣接。「くさぎ菜のかけめし」 1200円。

 

▲店員の西村好文さん。クサギナは、「これぞ!」と思う生産者から仕入れるとのこと。

 

 

 

 

 

●「クサギナ摘み」「くさぎ菜のかけめし料理教室」を体験

 

令和7年度美咲町生涯学習講座「郷土文化を知ろう~もっと地元を好きになる~愛♡地元シリーズ 第3 弾「クサギナ摘みに行きませんか」

 

開催:2025年6月7日(土) 営業時間10:00~12:00  ※雨天の場合は延期 

会場:丸王寺(久米郡美咲町角石祖母(ついしそぼ)609)

 

講師は、「みさきみんなの台所会」。山の中でクサギナの若芽を摘み、熱湯で湯がくまでを体験。湯がいたクサギナは持ち帰り、各自で乾燥させる。基本は現地集合だが、道幅が狭い山道に不慣れなどアクセスに不安な人や難しい人は申込み時に相談を。花ばさみ、持ち帰り用ナイロン袋(湯がいたクサギナの持ち帰り用)は各自で持参。定員は先着10名。

 

材料費 200円 参加費 200円 ※いずれも当日集金 申込み締切り2025年 5月30日(金)


 

 

 

 

第4 弾「伝えたい繋ぎたい郷土料理 くさぎ菜のかけめし 作りませんか~!」

 

開催:2025年6月21日(土) 時間9:30~12:00

会場:旭地域多世代交流拠点「あさひなた」(久米郡美咲町西川1001-12)

 

講師は、記事に登場した青田眞智子さん。独特の風味が特徴の甘辛く炒り煮したクサギナと、コク深い鶏だしのかけ汁が絶妙。一度食べたらクセになる青田流「くさぎ菜のかけめし」を教えてもらえる。エプロン、三角巾、マスクは持参のこと。定員は先着10名。

材料費 600円 参加費 200円 ※いずれも当日集金 申込み締切り2025年 6月10日(火)

 

 

上記2つの講座の申込み・問合せは、以下のいずれかへ

 

旭総合支所 電話:0867-27-3111    旭公民館(「あさひなた」2階) 電話:0867-27-3674

美咲町中央公民館 電話:0868-66-7151 柵原総合文化センター 電話:0868-62-1125