玉野市/大藪ミカン

 【vol.07】おおやぶみかん

 大正時代から100年以上続く、大藪地区のミカンづくり。

▲玉野市大藪地区の山の南斜面からミカン畑と瀬戸内の海を望む

 

 

ミカン畑と瀬戸の海は、大藪のきらめき。

 

瀬戸内海地域は、温暖少雨の瀬戸内海式気候に恵まれているため、かんきつ類がよく育つ。収穫量の多い愛媛や広島が産地として知られるが、今回取り上げるのは、一〇〇年以上の栽培の歴史がありながら、生産量が激減して希少となっている玉野市大藪地区の「大藪ミカン」だ。

 

大藪地区は南側が海で、山の南斜面に開かれたミカン畑は日当たりがよく、潮風がミネラルを運ぶ。また、北と東西に山々が連なっているため台風や寒風が遮られ、冬でもほとんど霜が降りない。畑は水捌けがよく乾燥に強い土壌で、総じてよいミカンが育つ条件が揃っているという。

 

 

▲大藪ミカンは、甘みと酸味がしっかりした昔ながらの日本のミカン。大正時代から100年以上、玉野市大藪地区で栽培されてきた

 

 

栽培されている品種は「温州ミカン」で、なかでも時期の遅い晩生の「青島温州」がほとんど。時期の早い早生のミカンと比べるとひと回り大きく扁平した形が特徴だ。味は、甘み酸味ともしっかりした昔ながらのミカンで地元を中心に「大藪ミカン」と呼ばれて愛されてきた。

 

大藪ミカンの歴史を知る96歳の三宅さん。

 

 

大藪で代々ミカン農家を営んできた九六歳の三宅良治さんは、栽培初期から歴史を見てきた。「大藪ミカンは、大正初期に私の父・軍治と地域の仲間で苗を植栽したのが始まりです。当時は年に一度、山で伐採した木を船で運んで大阪や神戸で売っていて、それで和歌山でも薪を売って、その帰りにミカンの苗を購入したんです。私は昭和四年生まれですが、六歳の頃に苗は一メートルくらいに育っていました。10歳の頃にはミカン農家が四戸あったかな、たくさん収穫できたのを覚えています」。

 

▲大正時代から続くミカン畑にて、三宅良治さん

 

 

そして、昭和40年から50年頃になると農家は30戸から40戸に増えて収穫量も上がり、集荷のトラックがあちこちの農家を回ってとても活気があったそうだ。

 

 

「でも、今はミカン農家は五戸程度になりました。減ったきっかけは、平成元年に国内ミカンが過剰生産だという理由で国がミカンの木を伐採奨励したこと、またオレンジの輸入自由化、農家の高齢化が重なって急激に減りました。私も90歳を越えてからは家族の分だけ作り、畑のほとんどを地元企業の『アール・ケア』さんにお貸しして栽培してもらっています」。

 

▲三宅良治さんと孫の聡さん

 

 

 

クラフトコーラで大藪ミカンを応援。

 

 とはいえ、三宅さんの大藪ミカンへの思いは現役当時と変わらない。子どもの頃からミカン畑が遊び場で、祖父の働く姿を見て育ったという孫の池上聡さん(38歳)は、「じいちゃんは今でも毎日のように時間があれば農機具の手入れや畑の草抜きをして、第一線にいるのと変わらない。僕の誇りです」と尊敬のまなざしを向ける。

 

 

聡さんは2023年に夢だったスパイスカレーの専門店を玉野市にオープン。こだわりのカレーとともに、大藪ミカンを使った自家製クラフトコーラを看板メニューとして出している。

 

 

 ▲クラフトコーラ「凪」は、大藪ミカンの甘みと酸味をしっかり感じられる「白凪」と、黒コショウなどスパイスがきいた「黒凪」の2種類。シロップも販売している

 

 

▲仲のよい三宅さんと孫の池上聡さん。江戸時代の古民家を改装した『Maholova(マホロバ)』にて

 

 

「僕はスパイスが大好きで店を持つのが夢でしたが、じいちゃんの畑を継がなくていいのか葛藤して悩んだ時期もありました。でも、クラフトコーラについて調べた時、その特徴が地域性を生かすことや原料にスパイスと、かんきつ系を使うことを知り、生産者でなくても自分の得意分野で農業を応援できるし、場づくりもできると胸が熱くなりました」。

 

聡さんは、自分のように応援する人が全国にひとりでも増えれば、農業の課題を解決する糸口を見つけることができるはずだと思いを強くする。孫が取り組む大藪ミカンのクラフトコーラを飲んで、三宅さんは「こんなええこと、もっと早くしてくれりゃよかったのになぁ」と嬉しそうに目を細めていた。

 

▲『Maholova』(玉野市田井4-31-19 10863-30-9204)は、10種類以上のスパイスを使ったスパイスカレーが自慢の店で、カフェ使いもOK。約200年前の古民家は佇い、空間ともに見ごたえがある

 

 

 

 

移住した津田夫妻がミカン園を引き継ぐ。

 

 

2022年、後継者不足が課題の大藪地区に、新たなミカン園が開園した。玉野市へ移住してきた福井県出身の津田貴史さんと岡山市出身の彩子さん夫妻が経営する『もんしーファーム』だ。

 

 

 

▲『もんしーファーム』にて収穫ボランティアのみなさんとともに。右から2番目が津田貴史さん・彩子さん夫妻

 

 

  

子どもの頃から大のミカン好きだったという貴史さんは、約10年勤務した化学系の会社を脱サラして、全国一八か所のミカン農家を巡り、「大藪なら自分の理想のミカンを作れる」と確信。大藪地区で引退するミカン農家から畑を引き継いで、全て手作業で除草剤不使用など栽培方法にこだわってミカンを育てている。

 

 

 

 

また、彩子さんは、玉野市の胸上漁協の壁画を描くなどアーティストとしても活躍中で、農園キャラクターを作り、ミカン箱やTシャツなどデザインしている。二人の経営理念は「食とアートを通じて農業のイメージを変える」。農園が日常生活に愉しさや彩りを添え、農業を身近に感じてもらえるよう活動している。

 

 

▲彩子さん作の農園のキャラクターもかわいいと評判

 

 

また、彩子さんは、玉野市の胸上漁協の壁画を描くなどアーティストとしても活躍中で、農園キャラクターを作り、ミカン箱やTシャツなどデザインしている。二人の経営理念は「食とアートを通じて農業のイメージを変える」。農園が日常生活に愉しさや彩りを添え、農業を身近に感じてもらえるよう活動している。

 

 

「移住して一番驚いたのは、地元の子どもたちが大藪ミカンを知らないことでした。フルーツ王国といわれる岡山に大藪ミカンがあることをもっと知ってもらいたいです。オンラインショップもあるので、まずは食べてみてもらいたいし、収穫体験も実施しているので来園してファンになってもらえたら嬉しいです。 多くの人とつながって大藪ミカンを盛り上げていくことを目指しています」。

 

 

 

今年も大藪地区のミカン畑に実りの秋が到来した。大藪ミカンは、『もんしーファーム』をはじめ各農園、個人の出荷を合わせても出荷量が少ないため、地元を中心に消費されている。『道の駅みやま公園』(玉野市田井)などで販売されるので、ぜひチェックしてみてほしい。

 

 

 

 

 

 「大藪ミカン」の収穫ボランティア体験はこちら

 

2025年116日(木)、13日(木)、20日(木) 10時~15

10月31日(金)までに要予約 

※日程は追加の可能性があるので、詳細はInstagramの@monsifarmをフォローしてチェックを

 

『もんしーファーム』では、202511月からミカン園の収穫ボランティアを募集する。海の見える畑で、希少な大藪ミカンを収穫して購入しよう。申し込みは、保険の都合があるため18歳~65歳限定、1日6名までとなる。応募者多数の場合は抽選。その後、①氏名、②フリガナ、③性別、④生年月日、⑤住所、⑥電話番号を記入して、下記へ送る。

mInstagramにて@monsifarmへダイレクトメッセージ、またはt.takashi.1986@gmail.com

 

会場もんしーファーム

住所:玉野市大藪776

駐車場:10

料金:無料

申し込み・問合せ:もんしーファーム(津田) 

電話:080-4524-4006

URL https://monsifarm.com/

 

 

 

 

※『オセラ2025年10月25日号』にて掲載。

※掲載の情報は、掲載開始(取材・原稿作成)時点のものです。状況の変化、情報の変更などの場合がございますので、利用前には必ずご確認ください。