弔いから生まれた盆踊りは、今では白石島民の心のよりどころに。
▲笠の外まで大きく手振りする「男踊」、笠の内で手振りする「女踊」と様子の異なる踊りが一堂に披露されるのが面白い。お盆には櫓を組み、その上で太鼓や口説きが披露される。
笠岡諸島のひとつ・白石島の浜辺で、太鼓と口説きといわれる音頭に合わせてゆったりと舞い踊る人々。だんだんと日が暮れ、夕やみ迫るなか踊る姿は趣があり、心に残る光景だ。この「白石踊」は、平安時代末期、源平水島合戦で戦死した人々が潮に乗って白石島に流れ着き、その人々を弔うために始められたといわれている。国指定重要無形民俗文化財であり、2022年には全国40件の踊りとともに「風流踊」としてユネスコ無形文化遺産にも登録された由緒ある踊りだ。
「白石踊」の特徴は、全部で13種類もあるという衣装や所作の異なる踊りをひとつの音頭と太鼓の調べにのって同時に踊ること。
「ぶらぶら踊」という基本の舞のほか、白い羽織を着て男性がダイナミックに踊る「男踊」、男性がはんてんを着て軽快に踊る「奴踊」、若い女性が振袖を着てほっかむりをして扇を使って優雅に踊る「二つ拍子」、笠をかぶった着物の女性がしっとりと踊る「女踊」が代表的だ。
▲黒紋付の着物に笠を被った「女踊」。笠の内で小さく舞うのが美しいとされる。
▲「奴踊」ははんてんに鉢巻きを締めた姿で舞う。そのほかに白い羽織姿が印象的な「男踊」があり、各々が異なる踊りをくり広げる。
▲振袖にほっかむり、手に扇を持つ「二つ拍子」。若手の女性が担う。披露会では、約10人の「白石踊会」のメンバーが県内各地より集まる。
印象の異なる踊りが一堂に集い、調和していくさまは、一般的な盆踊りとは趣が違い、芸術的な舞踊を見ているよう。夕暮れに現れる踊りの輪は幻想的でもある。
源平合戦にゆかりのある唄『那須与一』や弔いの唄『賽の河原』など、最盛期には60種類もあったという音頭が次々に披露される。毎年8月13日から16日の本来の盆の時期は櫓も組まれ、音頭に誘われて普段着の島民が踊りの輪に加わる、夏の恒例行事だ。
▲太鼓の拍子と、それに合わせて披露されるゆったりとした口説きの調べ、そして暮れゆく浜辺に現れる踊りの輪は幻のよう。
かつては夜通し踊ることもあったという。白石島に住む地元の人は、家族や身近な知り合いから教えてもらうこともあれば、「この踊りかっこいい!」と感じた人に声をかけ直接教えを乞い、まねながら受け継がれることもあるというから面白い。きれのいい手の動き、足さばきなど、粋な動きがこうして継承されていくのだろう。
白石島民の心に刻まれている「白石踊」。白石島出身者を中心にした「白石踊会」では、国内外で文化的価値を認められたこともあり、島のものとしてでなく広く多くの人に見てもらいたいと、県内外の文化的なイベントで踊りを披露する機会を多く設けている。また、島民の高齢化により失われる可能性のある昔の写真や貴重な資料を収集して踊りの保存・継承にも努めている。「白石踊会」理事の天野さんは、「『白石踊』は生活の一部。今のうちに次の世代に残したい」と語った。
▲「白石踊会」のメンバーと体験会参加者が輪になって踊る。夕暮れの海辺で舞う時間は、何ものにも代えがたい。
また、毎年8月前後の時期に観賞や踊りを体験できる催しでは踊りの指導を行なっている。2025年は7月19日(土)に観賞と体験がセットになったツアーが行われる予定。教えてもらいながらのつたない踊りから、慣れてきて自分流の動きを見つけ、音頭に乗ることまでできると、愉しさもひとしおだ。
この体験でもっと「白石踊」を深めたい人には、笠岡市街にある公民館で開催される練習会に参加するのもいいだろう。音に身を委ねて踊って、その空気感をぜひ体感してほしい。
『白石踊』をこちらで体験
<定期練習会>
無料で参加できる白石踊の練習会を月2回、『笠岡市中央公民館』で開催。初心者も参加でき、「ぶらぶら踊」のほか「男踊」「女踊」「奴踊」「扇踊」も習うことができる。
会場:笠岡市中央公民館 4階集会室(笠岡市笠岡1866-1)
日時:毎月第1・3土曜19:00~20:30 ※日程変更・中止の可能性あり。ホームページで確認を
問合せ:笠岡市生涯学習課℡0865-69-2155
https://www.city.kasaoka.okayama.jp/soshiki/39/34282.html
<白石踊鑑賞体験ツアー>
島で体験したい人には、白石島で踊りの鑑賞と体験ができるツアーがおすすめ。白石島海水浴場を舞台に、白石踊会による踊りの後、「ぶらぶら踊」のレクチャーがあり、最後に夕暮れ時に一緒に踊る。今年は7月に開催予定。参加料金、詳細などは笠岡市観光協会に問合せを。
日時:2025年7月19日(土)13:00~21:00
集合場所:住吉港(笠岡市笠岡2435-2)
料金:8500円(船代、夕食代、鑑賞料、保険代含む) ※先着40名、7月12日(土)までに要申込み
問合せ:笠岡市観光協会℡0865-62-6622
※『オセラ2025年6月25日号』にて掲載。
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