日本でも有数の天体観測スポットとして知られている岡山県の西南エリア。
吸い込まれるような美しい星空を求めて、全国から多くの天文ファンや星好きが集まる。

浅口市と井原市は天文ファン羨望の地。
「晴れの国おかやま」といわれる岡山県は、夜も晴れることが多いため、日本屈指の天体観測の好適地となっている。その理由として、瀬戸内海地域が中国山地と四国山地の間にあって、日本海側と太平洋側の湿った空気が遮られるため、晴天率が高いこと。特に、西南部は地形の多くがなだらかな丘陵地で上空の気流が安定しやすい。そのため大気の揺らぎが少なくなり、星の瞬きも小さく、はっきり見えやすくなることが挙げられる。
なかでも浅口市鴨方町から矢掛町にまたがる竹林寺山は『国立天文台ハワイ観測所岡山分室』『岡山天文博物館』『京都大学岡山天文台』が並び建つ天体観測の聖地。観測用の大型ドームが七つも並ぶ場所は、日本で唯一だ。

また、井原市美星町は2021年、星空版世界遺産と呼ばれる「星空保護区®」の「コミュニティ部門」でアジア初の認定を受け、天文ファン羨望の地となった。
ちなみに、興味深いことに、この地域は星にまつわる伝承が多い。竹林寺山近くの阿部山は、平安時代に活躍した陰陽師・安倍晴明が天文観測を行なったと伝わる地。また、美星町星田には鎌倉時代に流れ星が落ちた「星尾降神伝説」が伝わる。古代から星と縁を持つ地域なのだ。
巨大望遠鏡と、天文博物館がある浅口市鴨方町。
天体観測の聖地としての象徴は、1960年に開設した『国立天文台ハワイ観測所岡山分室』(開設当時は『東京大学東京天文台岡山天体物理観測所』)だ。主鏡は口径188㎝の反射望遠鏡で、七四インチにちなみ通称「ナナヨン」。開所から66年を迎えた今も現役で日本の天文学研究の中核を担う。
室長の田實晃人さんはこう語る。「1960年当時、東洋一の巨大望遠鏡『ナナヨン』の設置候補地として、岡山・長野・静岡が挙げられました。そこで一年間試験観測を行なった結果、星の見え方のよさ、夜空の透明度、天候のよさを総合して岡山に決定したのです。観測装置はその都度最新の機材へ更新され、世界中の研究者が使い、取得したデータで研究をしています。


星の一生は長く天体研究も長い年月を要するため、60年以上活躍する望遠鏡は非常に貴重です。また、次世代の研究者の育成にはデータ解析だけでなく、実際に望遠鏡を操作する経験が重要。それもあって全国から研究者が訪れますが、JRの駅や鴨方インターも近く、アクセスがよいことも大きな利点。岡山で正解です」。
さらに当地には、2018年、口径3.8mの「せいめい望遠鏡」を備えた『京都大学岡山天文台』が誕生した。最大の特徴は、従来の反射望遠鏡が一枚鏡であるのに対し、小さな鏡を組み合わせて巨大な鏡を構成する分割鏡方式を採用していること。広報担当の戸田博之さんは、「光学望遠鏡としては日本初の分割鏡になります。また主鏡を支える架台もユニークで、三角形を組み合わせたトラス構造を用い、大幅な軽量化を実現。
そのため駆動が速く、たとえば重力波や超新星爆発などの突発的な天体現象でも一分程度で捉えることが可能になりました。純国産なのでメンテナンス面でも大きな利点があります。『国立天文台』とともに世界の研究者と連携しながら東アジアの夜空を観測する重要な拠点となっています」と語る。


◀「せいめい望遠鏡」の架台に貼られた大阪の安倍晴明神社のお札もチェックしてみて。安倍晴明は、竹林寺山の近くの阿部山で天体観測を行なったと伝わっている
天文台の研究をわかりやすく伝える役割を持つ博物館。
2つの天文台の研究や成果を一般の人にわかりやすく伝える役割を担うのが、「ナナヨン」と同じ年に開館した『岡山天文博物館』だ。海外では、研究成果を伝えるビジターセンターが多いが、日本ではまだ限られる。そうした中で天文台の取り組みや宇宙の魅力、岡山の星空が特別だということをプラネタリウムや模型、パネルなどの展示を通して伝えている。
館長の粟野諭美さんは、「星空は世界共通で、地球のどこにいても同じ星を見ることができます。そこが星空の面白さです。星を見てきれいだと感じたら、次のステップとして博物館を訪れてみてください。その先の宇宙についてきっと興味が湧くはず。天文のことに限らずですが、興味を持ったことを大切に育んでほしいと思います」と語る。
博物館では「君も望遠鏡博士になろう!」と題して巨大望遠鏡の見学ツアーをそれぞれ毎月一回開催。またプラネタリウムでヨガやコンサートも企画する。浅口市でも市としてグッズやツアーを企画して、幅広い世代が天文に親しめる取り組みを行なっている。



美星町は、約30年をかけて国際的な「星空保護区®」に。
天体観測を難しくする要因に、「光害」がある。人にとって安全で快適な夜間の生活に照明は欠かせないが、過剰な人工照明は夜行性動物の生態や農作物の生育などに悪影響を与え、また人工光が大気中に散乱して夜空全体が明るくなり、星が見えづらくなる現象を指す。
美星町は1989年、全国初の「美しい星空を守る美星町光害防止条例」を制定。たとえば、町内の屋外照明は水平以上に光が漏れないようする。22時以降は消灯を推奨するなどだ。必要な場所で、必要な量と時間を意識した照明の使い方。30年以上の保全の努力は、やがて国際的な制度「星空保護区®」の認定へとつながっていく。
「星空保護区®」とは、NPO団体ダークスカイ・インターナショナルが2001年に始めた光害の影響のない、暗い自然の夜空を保護・保存するための優れた取り組みを称える制度。現在、世界250か所以上の認定地のうち日本では西表石垣国立公園(沖縄県)、神津島(東京都)、井原市美星町(岡山県)、大野市南六呂師(福井県)が認定されている。
「『星空保護区®』を目指すにあたって美星町観光協会と井原市は2016年からプロジェクトを開始したのですが、条例の制定も30年近く経つと形骸化、美星町内の街灯もLED照明の普及によってまち全体が明るくなり、上方向に光が漏れている状況でした。そこで、専門家をたびたび招いて星空を守る価値や光害対策について学ぶ住民向けセミナー、学校での特別授業などの啓発活動に取り組みました」と、井原市観光交流課の藤岡健二さんは当時を振り返る。


さらに画期的な取り組みとして、「星空保護区®」の厳格な基準に適合する照明器具の開発をパナソニック社に依頼。周囲と協力して740台の街灯や公共施設の屋外照明を交換する大事業に着手し、なんと約二年という短期間で達成した。また、その資金集めも美星町観光協会がクラウドファンディングを利用し、目標額を大幅に超えて大成功。見事に町や市の単位が対象となる「星空保護区®」の「コミュニティ部門」においてアジア初の認定を受けた。「子どもたちに、故郷の美しい星空を残していくこと。それには変わらずに環境を守っていくこと。その理念を継承していくことが大切です」と藤岡さん。井原市もまた星空を守る取り組みを普及啓発するためツアーやグッズ開発でPRに尽力する。
専門技師の解説付きで星空を見る『美星天文台』。
天文ファンから羨望を集める美星町で活躍するのが1993年に開館し、当時、中国地方最大級の公開天文台となった『美星天文台』だ。主鏡が口径101cmの反射望遠鏡を備え、昼間はもちろん夜間も開館している。ドームの外に広がる観望デッキにも星団や星雲の観測に適した大型の対空双眼鏡や望遠鏡を設置。さらに東へ約4km、標高約500mの大倉龍王山にある『井原市星空公園』にも口径60cmの望遠鏡があり、こちらも同天文台が管理する。
公開天文台の役割は、一般の人々に天体観察の機会と学びの場を提供すること。そのため昼間だけでなく夜間も週四日開館している。なんといっても専門技師によるていねいでわかりやすい解説を聞きながら天体観察ができることが一番の魅力だ。


専門技師の前野将太さんは、写真や画面ではなく自分の目で自然に輝く本物の星を見る大切さを語る。「当天文台の主鏡は肉眼の約2万倍の性能があり、木星の縞模様や土星の環、さらに惑星を回る衛星まで観察できます。土星の直径は地球の約九倍もありますが、望遠鏡でようやく見えることから宇宙の広大さを直接目で見て実感できます。そうした体験によって、物事を客観的に捉える視点も養われますし、自然界への理解も深まっていきます」。
同じく技師の中内弘さんは、「来館者が望遠鏡で天体を見た時、想像以上に驚いて心を動かされている姿を見ると、こちらまで嬉しくなります。私自身も天体観測のたびに、宇宙は一体どうなっているんだろうと新鮮な驚きや感動を覚えますから。いつでも何度でも来館してください。宇宙の謎について一緒に研究していきましょう」と語る。

専門技師もテーマを持って研究を進め、各地の天文台や研究機関と連携して、超新星の発見や恒星の継続観測など学術的な記録や研究にも貢献する。職員が撮影した見応えがある天体パネルや、また最新データをもとにした映像を3Dメガネで愉しめる国立天文台の四次元デジタル宇宙プロジェクト「4D2U」の上映は、天体観察の前にぜひ見ておきたい。
なお、誰もが気軽に天体観察できることを目的にした公開天文台は全国に300施設以上を数え、今年は、1926年に日本初の公開天文台『倉敷天文台』が開設して100周年を迎える。天文ファンを熱くするイベントも多いのでこちらもチェックを。
岡山の星空は、未来へ受け継ぐべき貴重な地域資源。情熱を持った研究者や技師たちと、誰もが宇宙への理解を深められる施設に恵まれ、近隣の市町が協力しながらツアーやイベントなどを企画して、星空の価値を高める活動を続けている。
(画像提供/『国立天文台ハワイ観測所岡山分室』『岡山天文博物館』『美星天文台』)
●「星空」を体験する観望会と観察イベント&プラス情報はこちら
井原市『美星天文台』夜の観望会
季節に合わせて職員の解説付きで木星や土星といった惑星、星団や銀河を見ることができる観望会。申込み不要。詳細は『美星天文台』のHPを参照。また、昼間でも金星や一等星の観察が可能な昼の体験プログラムも用意されているのでこちらも利用したい。さらに、口径60cmの望遠鏡を備えた『井原市星空公園』でも月1回程度の一般観望会あり。こちらもチェックしてみて。
会場:美星天文台
住所:井原市美星町大倉1723-70
料金:300円
問合せ:美星天文台
電話:0866-87-4222



井原市『美星天文台』流星群観察会
8月はペルセウス座流星群、12月はふたご座流星群を見る、流星観察会のイベントが開かれる予定。最も流れ星が多い時間には1時間で約30個の流星を観察できるという。広場に多くの人が寝転がって流星を見たり数えたりしながら天体ショーを愉しむ。日程や料金、申込み、予約、定員などの詳細は『美星天文台』のHPにて。
会場:美星天文台
住所:井原市美星町大倉1723-70
問合せ:美星天文台
電話:0866-87-4222


浅口市『国立天文台ハワイ観測所岡山分室』188cm反射望遠鏡 限定観望会
年数回開かれる観望会。巨大望遠鏡「ナナヨン」は、通常時は日中に窓越しでしか見ることができないが、この日は夜間に開館して実際に天体観察を体験できる。とても貴重な機会を逃さないように。2026年度の日程、申込みなどの詳細は浅口市のHPにて(開催時期が近づいたら随時更新)。
会場:国立天文台
住所:浅口市鴨方町本庄3037-5
料金:3500円 ※要予約
申し込み・問合せ:浅口市産業振興課
電話:0865-44-9035


浅口市『国立天文台ハワイ観測所岡山分室』188cm反射望遠鏡の貸切利用
浅口市では1年のうち数回、一般の人向けでも国立天文台ドームおよび188cm反射望遠鏡を、一夜中貸切りできる日を設定。望遠鏡の操作には専門員が付くので天体観察に没頭できる。コンサートやコスプレなどのイベント、結婚式を開くこともOKだ。貴重な貸切日を利用して、とっておきの思い出をつくってみたい。日程や申込みなどの詳細は浅口市のHPにて。
会場:国立天文台
住所:浅口市鴨方町本庄3037-5
料金:20万円 ※12時間以内
申し込み・問合せ:浅口市産業振興課
電話:0865-44-9035
浅口市「京都大学せいめい望遠鏡電視観望会」
『京都大学岡山天文台』の「せいめい望遠鏡」は、通常時3階の窓越しでしか見ることができないが、年数回、望遠鏡のすぐそばまで近づいて見学ができ、さらにその後、『岡山天文博物館』のプラネタリウムで望遠鏡から送られるリアルな映像を見る電視観望会がある。日程、申込みなどの詳細は『岡山天文博物館』のHPにて。
会場:『岡山天文博物館』『京都大学岡山天文台』
住所:浅口市鴨方町本庄3037-5
料金:高校生以上1000円 小学生500円 ※要予約、定員30名。申込みが多数の場合は抽選となる。
申込み・問合せ:岡山天文博物館
電話:0865-44-2465



※『オセラ2026年4月25日号』にて掲載。
※掲載の情報は、掲載開始(取材・原稿作成)時点のものです。ご利用前には必ずお問い合わせ・ご確認ください。