早島町・倉敷市/イ草・花ござ

【vol.8】 いぐさ・はなござ

地元の人が築いたイ草の文化を守り、未来の世代に受け渡すために。

▲『早島町花ござ手織り伝承館』にて明治・大正期の貴重な織機を使って、1本ずつイ草を通しながら花ござを織る。

畳表の産地だった

早島一帯。

 

倉敷市や早島町の平野部の多くは、かつて「吉備の穴海(あなうみ)」と呼ばれた海だった場所。

江戸時代から干拓が始まり、早島町や倉敷市茶屋町のあたりでは、干拓後に塩分に強いイ草が栽培されていた。

 

早島ではそのイ草を使って畳表を織るようになる。産業として発展していくのは江戸時代中期。

早島産の畳表は「早島表(おもて)」と呼ばれ丈夫だと評判になり、近江商人を通じて、船便で大坂や江戸に出荷されていた。 

 

▲「早島表」は、短いイ草を中ほどで交差させて織る「中継ぎ」が特徴。右は「早島表」を織っていた織機。

磯崎眠亀の登場で

畳表から花ござへ。

 

いっぽう、早島の隣に位置する倉敷市茶屋町には、イ草を使った花ござの価値を高めた人がいた。

 

その名は磯崎眠亀(いぞざきみんき)。

 

江戸時代後期の天保5(1834)年に生まれた眠亀は地場産業である畳表のほかに、イ草を使って美しいござができないかと考えていた。

そんなとき、スリランカの手工芸である龍鬢莚(りゅうびんえん)を見て、精巧緻密な筵(むしろ)を作るというアイデアを思い立つ。自宅二階に閉じこもり、製法、染色方法など4年間も研究を重ねて作りあげたのが「錦莞莚(きんかんえん)」だった。

 

 

▲一番左が磯崎眠亀による錦莞莚「極彩牡丹唐獅子模様」の一部。細かい織目と、だからこそ表現できる細密な絵柄が見事だ。『倉敷市立磯崎眠亀記念館』の2階では、貴重な「錦莞莚」を展示。「煮沸塩基染色法」のおかげで、約100年経った今でも鮮やかな色が残っているのが裏側を見ると分かる。

 

その際に眠亀が生み出したものが約2.5ミリもの細かい織目で織ることができる織機。

実際の「錦莞莚」を見てみると、よく見るござや畳の織目に比べて細かいことが分かる。

このおかげで織物でありながら絵柄の曲線が滑らかで細かく表現できるようになった。

また、イ草の色を一度落として海外の化学染色料でイ草の芯まで染めることで色落ちや変色をしない「煮沸塩基染色法」を発明したのも眠亀の功績だ。

 

高い技術で作られた「錦莞莚」は、その技術を守るために明治18(1885)年に専売特許を取得。

高級品として特に海外での評価が高まり、明治35(1902)年にはアメリカへの輸出品目で上位三位となるほどになった。

「錦莞莚」の評判をきっかけに、明治・大正時代には岡山県内で花ござの製造が盛んになり、生産量が全国一位に。

早島町でも明治20年代には『早島物産』をはじめ、花ござの製造会社が次々と設立された。

大正7(1918)年には輸出額より国内向けの生産額が上回るようになった。

 

 

しかしライフスタイルの変化や後継者不足などの影響で早島町や茶屋町でのイ草や花ござの生産量はだんだんと減少していく。茶屋町の磯崎眠亀の「錦莞莚」は高度で複雑な技術のため後継者がおらず、今に受け継がれることはなかった。

▲経糸は通常の花ござの4、5倍はあるという「錦莞莚」の織機。

継承の苦労と思い。

 

そこで早島町、茶屋町では地元のイ草・花ござ文化を受け継ごうと活動を始める。

早島町では『早島町花ござ手織り伝承館』を建て、12人ほどいる「花ござ手織り技術保存会」のメンバーが週二回集まって花ござの伝統技術を学び、制作している。

使用している織機は、町内の会社から譲り受けた明治・大正時代のもの。経糸を張るところから苦労し、工夫を重ねて下準備をし、織り進めていく。

「デザインを考えて起こすのは楽しい。でも織機が年代物なのですぐ調子が悪くなるから思い通りに織ることができないのが困りどころ」と保存会代表の溝手さんは語る。

 

経糸が見えない、目の詰まった柄がきれいに出るような花ござを目指して日々精進している。

保存会に当初から参加する安原さんは「織るだけじゃなく、模様を出すための紋板を作る方法、撚り糸で紋板を組む方法などの部分も伝承したい」と語る。  

▲早島町の「花ござ手織り技術保存会」の皆さん。花ござに模様を出すための紋板。まず紙でデザインし、木で紋板を手作りする。右写真のような現代的な柄の作品も手掛けている。

 茶屋町の磯崎眠亀の「錦莞莚」については技術が外部に出ておらず、眠亀の孫の龍子郎が機関紙『高梁川』に寄稿した「磯崎眠亀」や「錦莞莚」についての紹介文により当時の様子がうかがい知れるようになった。

 

また、当時の自宅兼作業場は現在『倉敷市立磯崎眠亀記念館』として活用。

今に残る貴重な「錦莞莚」やそれを織るための織機などを展示している。

1階から2階へ荷物を運ぶためのスロープ、作業場だった二階で火事が起こりにくいように塗った漆喰など建物自体にも各所に眠亀の工夫を見ることができる。

 

ともに一般の人がミニ織機での手織り体験ができるようになっている。

手間のかかることだが、地元でイ草を使った伝統文化があることを体験によって伝えたいという思いは同じだ。長年にわたり町をにぎわせたイ草文化を今に伝えている。

▲「磯崎眠亀顕彰会」の皆さんが、記念館にて「錦莞莚」の説明や手織り体験の説明をしてくれる。

ミニ織機で「花ござの手織り」をこちらで体験<1>

 

「早島町花ござ手織り伝承館 花ござ手織り体験」

 

「花ござ手織り技術保存会」の指導により、ミニ織機で手織り体験ができる。

自分が織った花ござが欲しい場合は、加工したものを後日もらうことができる。

昔ながらの花ござ織機や作るための道具や部品、染色されたイ草など、花ござ制作にまつわるあれこれも見ることができる。

隣接する『早島町歴史民俗資料館』には早島町のイ草の歴史や道具が展示されているので、ぜひ見学を。

 

会場:早島町花ござ手織り伝承館(早島町前潟240)

日時:火・金曜の13:30~15:00内で「花ござ手織り技術保存会」が対応できる日時

料金:500円(コースター4枚分) ※要予約、完成品は後日のお渡し

申込み・問合せ:早島町生涯学習課℡086-482-1511

ミニ織機で「花ござの手織り」をこちらで体験<2>

 

「倉敷市立磯崎眠亀記念館 花ござ手織り体験」

 

 記念館の敷地内に併設された、花ござの伝統技術を継承するための施設『花むしろ工房』で手織り体験ができる。体験者には縁に布を貼って完成させるコースターをプレゼント。「磯崎眠亀顕彰会」はこの手織りの指導のほか、『倉敷市立磯崎眠亀記念館』の建物の案内や磯崎眠亀について紹介してくれる。建物のあちこちに残る眠亀の先進的な考えに基づいた工夫を見れば、アイデアマンだったことが感じられるはずだ。

 

 

会場:倉敷市立磯崎眠亀記念館(倉敷市茶屋町195)

時間:9:00~16:30のうち約2時間

料金:無料 ※3日前までに要予約

休み:月曜(祝日の場合は翌日)、12月28日~1月4日 

申込み・問合せ:倉敷市立磯崎眠亀記念館℡086-428-8515

 

 

※『オセラ2025年12月25日号』にて掲載。

※掲載の情報は、掲載開始(取材・原稿作成)時点のものです。状況の変化、情報の変更などの場合がございますので、利用前には必ずご確認ください。