一度は途絶えた牛窓での生産を、
ひとりの男性の地元愛と熱意で再興させた
伝統野菜の今までとこれから。

一時は生産者ゼロだった「備前黒皮かぼちゃ」。
瀬戸内市の野菜の特産品としてよく知られているのは、秋冬に収穫されるキャベツやハクサイ。夏の時期は、その畑を使って主に冬瓜やそうめんカボチャが育てられている。しかし近年、市内でも牛窓町を中心に出荷量を増やしているのが、伝統野菜「備前黒皮かぼちゃ」だ。
その表面は黒にも近い深い緑色で、縦の溝が深く、ほかのカボチャよりこぶが多い特徴を持つ。カボチャというと冬に食べる野菜というイメージがあるが、「備前黒皮かぼちゃ」は7・8月上旬に旬を迎える。明治時代に牛窓に導入された「田尻なんきん」という品種のカボチャに黒皮系の品種が交雑して誕生したとされ、昭和初期は牛窓周辺が「備前黒皮かぼちゃ」の一大生産地だった。最盛期の昭和24年頃には、京阪神や九州へ年間約600トンも出荷されたいう話も残っている。
戦時中でも栽培されていたこのカボチャは、牛窓の人にとっていた命をつなぐ大事な食糧だった。食糧統制下だった当時は、手に入りにくかった米や麦の代用として食卓によく上がり、戦中・戦後をこの地で生きた人々には心象風景として記憶されている。
そんな「備前黒皮かぼちゃ」を使った郷土料理として、小豆やうどん、小麦で作った団子などを一緒に煮た「南瓜雑煮」も生まれた。戦後になると、現在一般的になっている西洋カボチャが普及していき、それに反するように「備前黒皮かぼちゃ」の栽培が減少。2002年には牛窓近郊での生産者はゼロになってしまった。

地域の宝として、伝統野菜の復活に奔走。
時を経て復活したきっかけは、瀬戸内市長船町にある『日本一のだがし売場』でおなじみの会社・株式会社大町で働く安達勇治さんが、「備前黒皮かぼちゃ」を知ったことから。もともと在来種の作物に興味があるなかで、すでに地元で栽培されなくなった「備前黒皮かぼちゃ」の存在を12年前にインターネットで知る。「生まれ育った地域の伝統野菜が忘れ去られていることが残念」と思った安達さんは、復活を目指して友人たちと団体「備前黒皮を復活させる会」を立ちあげ、まずは再び栽培するための情報を地元周辺に求めた。
すると、岡山県農林水産総合センターと牛窓町の農家に種が残っていることが判明。その種をもとに瀬戸内市内の農家に協力を呼びかけ、試験栽培をスタートすることとなった。その後、試行錯誤の末、ついに6年後の2021年には20年ぶりに商業出荷できるまでに。2023年には、栽培してくれる生産者たちで「備前黒皮かぼちゃ振興協議会」をつくり、今では生産者8団体が参加。今年度は年間10トンの出荷量を目標に栽培に取り組んでいる。
気になる実際の「備前黒皮かぼちゃ」の味はというと、よく見る西洋カボチャに比べ、水分量が多くみずみずしくあっさりした味わい。収穫から2週間程度、切った断面が緑がかった黄色の時は生食も可能で、サラダやマリネに入れるのがおすすめだ。さらに時が経ち、外皮が粉をふいたようになり、断面がよく見るカボチャのようなオレンジ色になってきたら完熟。熟成するほどフルーティさとコクが増し、油とも相性がよくなるので、天ぷらや炒め物、汁ものの具材にするとねっとりとした食感を楽しむことができる。
いっぽう、現在はまだ生産量が少なく、認知度が低いのが課題。そこで、農林水産省がその地域ならではの農林水産物・食品を保護するために認定する「地理的表示(GI)」を2024年4月に取得した。取得後は生産者や消費者からも注目を集めるようになり、出荷価格を約3割アップもすることができた。
一年中楽しんでもらえるように、加工品も販売。
毎年7月中旬になると、『日本一のだがし売場』のほか、地域のスーパーや百貨店に出回るが、出荷時期は1カ月と短く、食べ頃の見極めが難しいなど、地元の人になかなか味わってもらいにくいジレンマも。
そこで「備前黒皮かぼちゃ」を使ったパンやシフォンケーキ、焼酎などの季節問わず味わえる加工品を作り、『日本一のだがし売場』に置き、一年を通じて身近に感じてもらおうと力を入れている。同店で月に1回販売される、岡山銘菓の『大手まんぢゅう』とのコラボ商品「南瓜まんぢゅう」は、毎月すぐに売り切れるほどの人気だ。また食育として地元の小学校の学校給食で味わえる機会も設けている。振興協議会会長の安達さんは「自分たちが楽しむだけではだめで、地域のため次世代へ受け継ぐことが役目だと思っている。地域の宝として、よいものは伝え、広めたい。そうして知られて地域が潤うといい」と語る。
7月中旬には「備前黒皮かぼちゃ」を使った料理を楽しめるイベントを開催し、より気軽に味わってもらう機会も設ける。旬の時期に店頭で「備前黒皮かぼちゃ」に出合ったら、いつものカボチャと違うみずみずしさ、味わい、歯応えをぜひ堪能してみてほしい。
イベントや年中味わえるスポットを紹介。
「備前黒皮かぼちゃ」が旬の時期に行われるイベント
「日本一のげんきマルシェ」
旬を迎えた「備前黒皮かぼちゃ」を楽しめるイベント。「備前黒皮かぼちゃ」を使ったピザやカレー、タコ焼きなどを出す屋台が並び、多彩な味わいを堪能できる。青果のカボチャやその加工品なども販売。「備前黒皮かぼちゃ」づくしの、個性や魅力を体感できるマルシェになりそうだ。午前中は牛窓の野菜や水産物を販売するトラック朝市も行われる。
「備前黒皮かぼちゃ」を使った郷土料理を提供
「cafe CLOVER」
牛窓の郷土料理である「南瓜雑煮」を、かつて実物を味わった人の意見を取り入れて再現。下にそうめん、その上にあん、白玉だんご、「備前黒皮かぼちゃ」をのせて、「南瓜ぜんざい」700円という名称で季節を問わず提供する。物資が乏しかった時代の味なので、あまり調味料を加えないシンプルな味わい。素材の味がしっかりと感じられる。
取材協力:備前黒皮かぼちゃ振興協議会
※『オセラ2026年6月25日号』にて掲載。
※掲載の情報は、掲載開始(取材・原稿作成)時点のものです。ご利用前には必ずお問い合わせ・ご確認ください。